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 これまで足を運んで見に行った刀剣の記録をまとめ…ていこうと思っていたのに、いきなりほぼ2年も空いてしまったんですが。



2019年5月25日(土)・26日(日)
○刀 銘 長曽祢興里入道乕徹【平成31年度春季展(3)特別陳列 乕徹/岡山県立美術館】
○平成の浦島虎徹(浦島虎徹写し)【渡辺美術館】

●福岡→岡山→鳥取→岡山→福岡のルートで行って参りました。1日目に倉敷刀剣美術館と、岡山県立博物館(特別陳列 乕徹)へ。
 岡山県立博物館での展示解説、とてもためになりました!  女性の学芸員さんで、質問等もしやすかったので、とてもよかったです。虎徹と清光が並んでました。
 倉敷のほうは…こちらも今は新撰組関連の刀の展示がされていて、(隊士所用の刀として)南海太郎朝尊の刀が見られたりしたのはよかったんですが…展示の仕方がこう、雑然としていて分かりにくく…何かちょっとアレというかね…ハイ。
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 そして以下に、展示解説の内容+質疑応答をまとめたものを載せますが、まとめるに当たって個人の解釈(しかも初心者)も含まれておりますので、参考程度にお願いいたします。

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刀 銘 長曽祢興里入道乕徹/重要文化財/江戸時代前期/個人蔵
 虎徹は越前(福井県)の甲冑師であったが、江戸に出て刀工へと転身し、名刀を数多く残した。斬れ味が良いことで知られ、当時から高い評価を受けていた。本作は奥平家の伝来である。
 地鉄は板目がよくつみ、地沸がつき、地形が入る。刃文は湾れ調に互の目が交じり、太い沸足が入る。反りは虎徹の中ではあるほうとなり、中鋒である。
刃長75.6cm/反り2.0cm

○新刀…地域ごとではなく、刀工一人一人に特徴が出てきた時代。地域間の交通・交易が発達し、材料や技術の伝達が盛んになったため。

○興里…50歳を過ぎてから、甲冑師から刀工に転身。200振り以上を鍛え、絶大な人気を誇った。そのため需要に対して供給が追いつかず、晩年には贋作が出回り始めた。明治~戦前くらいまで、銘を書き換えたりするなどして贋作が作られた。偽銘職人みたいなのがいた。「虎徹を見たら贋作と思え」と言われるほどだった。
 作刀において最も大事にしたのは斬れ味。試し斬りを行い、結果を銘に入れた。最高で四ツ胴。最上大業物と認定された。

○姿…「虎徹の棒反り」と言われ、全般的に反りが浅い。展示のものは、その中でも反りが強いほう(刃長75.6cm、反り2.0cm)。先を細くすることで実際より反っているように見せるなどして、姿を整えていた。
 当時、江戸では「突き」を取り入れた剣術が流行っており、突きに重点を置くならば、反りは浅いほうがよかった。しかし反りがなさすぎても「斬る」ほうが疎かになる(反りがあることで物に当たったときに自然に「引く」ことになり、斬れやすくなる)。「斬る」と「突く」の両立を目指した。そのために色々と研究を重ねていた模様。

○刃文…虎徹は沸出来と言われる。弟子の作も沸出来なので、ここはこだわりだったのでは(姿や刃文は、色々研究していたからか、ばらつきがある)。
 沸は銀の砂をまいたように見える部分。マルテンサイトという硬い部分とトルースサイトと呼ばれる↑より軟らかい部分との混在。
 研ぐと硬軟の差で凹凸ができる。それが乱反射して刃文に表れる。また物を斬るときの摩擦にも影響し、凹凸があることで摩擦が強くなり、よく斬れるようになる。
 沸が深い=沸の幅が広い。
 刃文はおとなしめ。刃文が派手(=マルテンサイトの硬い部分が多い?)=折れやすい(と言われている)。それを避けるためのバランスを研究していた?(ここは個人の所感)

○隣に加州清光が展示してあり、特徴的な加州茎(刃上がり片削茎)が見て取れる。清光が活動していた加賀と長曽祢がいた越前とが近いこともあり、影響を受けていたのか、虎徹も初期は加州茎のものがある。

○展示の虎徹…美術品よりの作品。截断銘、年紀なし。銘からすると寛文4~7年(1664~7年)頃のものでは。作刀を始めて15年くらい経った頃。

○戦国時代の刀のごつさは実用面から(そう作るしかなかった)。幕末の頃の刀(新々刀?)のごつさは刀工の好み。

○地鉄は蛍光灯、刃文はスポットライトが見やすい。スポットライトは白熱灯がいい。LEDは何かダメ(のっぺりしてしまう?)とのこと。

○女性の学芸員さんで、話しやすくて色々とお話が聞けました。他には、今回展示の虎徹は個人蔵だが、ずっと寄託を受けているもので、持ち主の許可があれば展示は可能だが、重文なので期間が決まっている…とか。日本刀には沸とか匂とか映りとか色々と見所があるが、それがなかなか見えた! とならないことで離れていく人も多いとか。次は青江派の展示を予定しているとのこと。

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●鳥取に移動して鳥取ナイト(せっかくだからとほぼ全員連れてきました)。からの鳥取砂丘へ(朝は曇り気味だったのでちょうどよかったかも)。ラクダに乗ったり梨ソフト食べたり。砂丘は夜に行っても星がきれいに見えておすすめだそうです。とはいえ砂丘登り下りでだいぶ体力削られます。
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●そして、「平成の浦島虎徹」を見に渡辺美術館へ。写真OK、裏も見えるように鏡を設置してくださっているのがとてもありがたい…🙏(そしてその鏡に極力映らないように四苦八苦した私のがんばりも見てやってください)
 平成の浦島虎徹、すらりと美しい刀でした。虎徹の脇差で平造りは珍しいそうですね。
 いつか、本歌のほうもこの目で拝んでみたいものです…。
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●渡辺美術館はとにかく展示の量がすごい。
 刀では他に焼き入れの前後に分けて不動明王を彫ったという長船清光や(彫りの線に硬軟が出ているような)、声をかけるとご利益がある(?)という加州清光や(単騎が当たったとか)、南蛮鉄で鍛えたの下坂継利や(地鉄が黒い)、地鉄の鍛えがよく見える波平などがありました(波平はその名から、水軍や海運業の人に重宝されたとのこと)。
 あとは埋金を施した刀とか、刀箪笥とか薬箪笥とか、印傳の下げ緒と虫食い柄の螺鈿の拵えとか。舞楽用の、柄頭に(おそらく)鳳凰が彫刻された拵えがめっちゃカッコよかったです!
 博物館の方がとても熱心に説明してくださって、白熱した、有意義な時間を過ごすことができました。また退館時には、私が忘れ物をしたり、バスの時間を勘違いしていたりでご迷惑をおかけしましたが、とても親身になってくださって、本当に助かりました。ありがとうございました(v_v)
 岡山県立博物館でも、渡辺美術館でも、刀に魅了された女性の方から熱いお話を聞けたのは、個人的にとても心に残る体験になりました。
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●そして帰路へ。これに乗ったわけじゃないんですが、乗り換えで降りたホームに停まってたコナン電車を思わず撮ったり。
 先日の名古屋同様、旅程の関係で地元の美味しいご飯を食べられてないのが心残りですが、飲み物は色々飲んだような。梨チューハイとか瀬戸内レモンソーダとか白桃レモネードとかすなばコーヒー味の豆乳とか。
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 ギリギリに思い立ち、かつ節約のために移動に時間をかけざるを得なかった旅行でしたが、行ってよかった、充実した旅になりました。
 直線距離は近いのに、福岡からはなかなか行きにくいのが難点な鳥取ですが、回りきれなかった展示品を見るためにも、喫茶スペースからののどかで目にやさしい眺めを見るためにも、また行けたらいいなぁと思いました。
 あと結局、岡山城にも鳥取城にも行けてないですしね…(後楽園には去年行ったんですけど)。